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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)1613号 判決 1954年8月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人名川保男、岩村辰次郎、岩村隆弘の上告趣意第一点について。

所論第一は、原審が証拠に採用した被告人並びに原審相被告人中筋恵、中村光治、赤塚巳之助の司法警察員に対する供述調書には供述拒否権を告げた旨の記載がないからその取り調べは違法であるとの前提に立ち判例違反をいうのであるが供述調書にその記載がないからといって、供述拒否権の告知がなかったとはいえないばかりでなく、これら調書の作成者である皆川登、松井貞明は第一審公判廷において証人として訊問を受け供述拒否権を告知した旨供述しているのであるから告知がなかったことを理由とする判例違反の主張はその前提を欠くものである。所論第二は、右供述調書が刑訴規則三九条所定の形式を欠く違法の書類であり、従って供述者が任意に供述したことを認めることができないからこれを証拠としたのは違法であるというのであるが、刑訴規則三九条は裁判官の面前調書に関する規定であり捜査機関は刑訴一九八条により調書を作成すべきものであるから所論はその前提において妥当せざるばかりでなくこれらの供述が任意になされたことは右皆川、松井二証人の供述により明らかであるからこの点に立脚する判例違反の主張もまたその前提を欠くものである。

同第二点について。

しかしながら所論各供述調書はいずれも各被告人の供述調書であって、各被告人に対してはその同意の有無によって証拠能力に影響を及ぼすものではないからその証拠調をするについて常に必ずしも供述したその被告人の同意を求めなければならないものではない。もっとも右供述調書中相被告人の作成にかかる供述調書を被告人に対する関係においてもその同意なく刑訴三二二条によって取調べをしたことは誤りであるし、また原審が相被告人との証拠関係を何ら区別することなしに証拠として挙示したのは相当でないけれども、これと同一内容に属する検察官に対する各供述調書は証拠能力がありと認められるから本件犯罪事実は右検察官に対する供述調書によってもこれを認定することができるのであり、これと相被告人に対する前記司法警察員に対する供述調書を綜合して有罪の認定をしても判決に影響することが明らかであるということはできない。従って所論判例違反の主張はその前提を欠くものである。

同第三点について。

第一審第六回公判調書によれば、検察官が被告人及び弁護人等に対して「右証拠物を順次示し、軍票以外の証拠物は朗読した上裁判官に提出した」旨の記載があり所論主張は証拠物として展示且つ朗読されたことが明らかであるから所論判例違反の主張はその前提を欠くものである。

同第四点について。

所論は、原判決の理由不備乃至事実誤認を主張するに帰著し刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第五点について。

所論は、訴訟法違反の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論被告人の自白は任意性がないというけれども記録上これを認めるべき事跡はない)また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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